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宇宙が夢だった頃:レイ・ブラッドベリ「万華鏡」 [散読記]

日本人5人目のシャトル飛行士、野口聡一さんを乗せたスペースシャトル「ディスカバリー」の打ち上げが成功した。
20万ドルのお金さえあれば宇宙旅行に行ける時代になっても、「宇宙飛行士」という言葉を聞くと懐かしさや誇らしさに胸がふるえるような感じがする。自分が宇宙に行くわけでもないのに。

10代の頃、レイ・ブラッドベリの小説に夢中だった。
一人の作家の本をあれだけマニアックに蒐集したことはほかにない。
短編が1本でも載っていればアンソロジーも買うし、すでに持っている短編集でも違う出版社から出るとまた買うし、ふだん買ったことのない『ユリイカ』や『奇想天外』にも、ブラッドベリ特集の時だけは手を出した。

SFだけでなく、幻想文学も怪奇小説も少年小説もそれぞれにいいので、1作だけ選ぶのは絶望的にむずかしいが、宇宙もので真っ先に思い浮かぶのは「万華鏡」だ。


航行中のロケットが爆発し、乗組員たちは真っ暗な宇宙空間に投げ出される。
密閉された宇宙服に守られ、通信機で交信をしながら別々の星に向かって漂流していくホリスと仲間たち。万華鏡のかけらのように、一人は月へ、一人は流星群の中へ、一人は母なる地球へ。
確実に近づく死を前にして、怒りと絶望と和解の時が訪れる。そして最後の通信が闇に消えたあと、地球に落ちていくホリスは、仲間を妬んで傷つけようとした自分のいやしさを悔やむ。

俺には何ができる? ぱっとしない、むなしい人生をつぐなうためにいま何ができるというのか? 俺が長年かかって集めてきて、それでいて自分のなかにそんなものがあるとは気がつきもしなかった、あのいやしい心。……
すべてが終わったいま彼はひとつでもいいことをしたかった。自分ひとりにしかわからないいいことを。……
大気圏にぶつかったら、俺は流星のように燃えるだろう。/「ああ」と彼はいった。「だれか俺を見てくれるだろうか」(川本三郎訳、サンリオSF文庫『万華鏡』より)


この短編もいろんな出版社のいろんな短編集で、いろんな翻訳者が訳していたと思う。
わたしが一番好きなのは、この川本三郎訳。引用した文章のあとに最後のワンシーンがあるのだけれど、セリフのほんの一語、というか語尾の違いで、ラストの余韻がまるで違ってくるから不思議だ。

ブラッドベリの作品は当時、萩尾望都によって漫画化されたものが単発で週刊マーガレットに掲載されていた。これは現在、文庫化されたものが手に入る。収録されているのは宇宙飛行士への少年の夢を描く「ウは宇宙船のウ」のほか、「泣きさけぶ女の人」「霧笛」「みずうみ」「ぼくの地下室へおいで」「集会」「びっくり箱」「宇宙船乗組員」と名作ぞろいだ。また、この人ほどブラッドベリのエッセンスを見事に抽出できる漫画家はいない気がする。

ウは宇宙船のウ 

 

 

 

 

そういえば昔、「万華鏡」の読み比べに刺激され、自力で訳してみたくなって『刺青の男』の原書を買い、1ページ目で早くも挫折したのだった。その本はいまも未練たらしく本棚の隅に置き去りにされている。無謀な10代の頃の夢の名残りである。


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うみのつばめ

チヨロギさん、おはようございます。
タイトルを見た瞬間、萩尾望都先生の名前が浮かびました。
そう、私の中では、レイ・ブラッドベリといったら萩尾先生なのです。
ブラッドベリは、萩尾先生の作品を読んだことから。そこから萩尾先生先行で、創元文庫やハヤカワSF文庫に嵌ったものです。
少女の頃、ただ漠然と憧れ、空想した大宇宙の無限さ、森羅万象の不思議さ、自然の摂理など、口(文)では上手く言えないけれど、この広がりを萩尾、竹宮先生を始めとする24年組の先生方に教わった気がします。
『11人いる!』『地球へ・・・』好きだったなぁ~
by うみのつばめ (2005-07-28 08:50) 

チヨロギ

つばめさん、こんばんは。nice!とコメントありがとうございます。
わたしもブラッドベリ+萩尾望都さんには大きな影響を受けましたよ~。おそらく脳細胞の何%かはブラッドベリ成分でできています。
萩尾さんは少年の危うさや残酷さ、繊細さを描くのが抜群にうまかったですよね。そこにもブラッドベリに通じるものがありました。
そして24年組! もはや漫画という枠を超えていましたね。ああいう作品群にあのころ出会えて、ほんとによかったなーと思ってます。
by チヨロギ (2005-07-29 00:27) 

チヨロギ

◇柴犬陸さん、nice!ありがとうございます(^.^)
by チヨロギ (2007-01-12 02:23) 

びっけ

レイ・ブラッドベリ!
私も10代の頃、大好きだった作家です。
でも、チヨロギさんの方が私よりずっとブラッドリアンのようにお見受けします。
訳者によって異なるニュアンスまでチェックしていらっしゃるなんて流石です。

>自力で訳してみたくなって『刺青の男』の原書を買い
同じです!
我が家の本棚にもブラッドベリの「the golden apples of the sun 」と「a medicine for melancholy 」の原書がひっそりと眠っています。(^^;

望都さまの作品では、「びっくり箱」が印象に残っています。文章で読んだ時とは違う、絵でこそ伝えられる雰囲気が加味されていて感心したことを覚えています。
by びっけ (2007-06-13 22:00) 

チヨロギ

◇びっけさん◇
過去記事も読んでくださって、ありがとうございます!
びっけさんと同じ時期にブラッドベリの虜になっていたんですね^^
この『万華鏡』はラストがとても印象的だったので、
訳文の違いがたまたま目についただけなんですよ~。
ただ、好きな翻訳家と苦手な翻訳家というのはありますけどね^^;
びっけさんも原書をお持ちでしたか!
いつも英語の歌詞を上手に訳していらっしゃるから、
ブラッドベリの訳もきっとうまいんだろうなぁ~^^
 >文章で読んだ時とは違う、絵でこそ伝えられる雰囲気
まさに! 望都さんはブラッドベリの原作に忠実でありながら、
きちんと独自の世界を描いていましたよね。見事でした。
by チヨロギ (2007-06-14 02:52) 

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